美濃焼の様式

現在の美濃焼は、様々な様式が存在し、その数はなんと15種類にも及びます。それぞれの様式は釉薬や外観の面で異なる色合いや質感を持ち、個々に独自の個性を表現しています。美濃焼の多様性は、その魅力と特徴を一層際立たせています。

灰釉(はいゆう)

灰釉陶器(かいゆうとうき)は、平安時代に日本で生産された陶器で、施釉に植物灰が使用されています。この灰釉陶器は、国内で最も早い時期に人工的に釉薬が施された陶器の一つとされています。緑釉陶器と共にその存在が知られており、日本の陶芸の歴史において重要な位置を占めています。

鉄釉(てつゆう)

鉄釉陶器は、釉薬に含まれる鉄分によって黒色や茶色、黒褐色、柿色などの色合いを持つ陶器の制作技法です。この技法は天目とも呼ばれ、東洋独特の焼物として独自の発展を遂げました。
古くは中国で作られ、その影響で日本や東南アジアでも作陶が行われるようになりました。

特に中国宋時代には優れた作品が多く生まれ、日本にも多くの鉄釉陶器がもたらされました。
日本では鎌倉時代から瀬戸の地で焼かれ始め、茶道の流行などを背景に発展しました。

近代に入ると技術的な進歩が見られ、鉄釉陶器を駆使した制作活動が全国各地で行われました。現代の鉄釉陶器は、伝統的な釉技を基にしながらも創意工夫が加えられ、高度な芸術的表現が可能となる陶芸技法として高く評価されています。

黄瀬戸(きぜと)

黄瀬戸陶器は、美濃の窯(岐阜県東濃地方)で焼かれる古瀬戸の系統に属し、淡黄色で発色する灰釉陶器です。東洋の焼物では灰釉が基本とされ、黄瀬戸は自然に発展した陶器と言えます。

初期の黄瀬戸としては、鎌倉時代から焼かれていた黄釉手などが存在しましたが、室町時代から桃山時代にかけて、半地上式の穴窯で焼かれる黄瀬戸は独特の釉調で美しい作品が生まれました。特に黄瀬戸の特徴である濃い黄色を強く表現したものが多くあり、赤土に鉄分を意図的に含ませるなどの工夫も見られます。

黄瀬戸の釉調には、つやのないしっとりとした釉面が特徴で、これを「あぶらげ手」または「あやめ手」と呼びます。また、つやがあり透きとおった黄色のものは「ぐいのみ手」または「菊皿手」と呼ばれています。

瀬戸黒(せとぐろ)

瀬戸黒はその名の通り黒色が特徴であり、桃山時代では主に茶碗が作られました。

釉薬には鉄分を含んだ鉄釉が使用されています。鉄釉の鉄分の濃度はおよそ10%前後と推測されています。焼成中に窯の外に取り出して急冷させる「引き出し黒」という技法により、独特の黒色が生まれます。

天目(てんもく)

天目という名称の由来については、複数の説が存在します。一つの説では、中国浙江省の天目山にある仏寺で使用されていた茶碗が鎌倉時代に日本の禅僧によって持ち帰られ、その茶碗を指して「天目」と呼ばれるようになったとされています。また、喫茶法を多く天目山の霊場から学んだことから、この地の寺院で使用されていた茶碗を天目と呼んだという説もあります。しかし、これらの説は定かではなく、ただ単に天目山で焼かれたために天目と呼ばれるようになったという説も存在します。

染付(そめつけ)

染付(そめつけ)とは、白い胎土で作られた素地に、主にコバルトを主成分とする絵具を使用して絵付けを施し、透明なガラス釉をかけて高温で焼き上げた陶磁器の一種です。

絵具の主成分はコバルトであり、正確には酸化コバルトII(酸化コバルト(ll))と呼ばれるものですが、この記事では簡潔にコバルトブルーと表現します。

中国語では「青花(チンファ、せいか)」または「釉里青(ヨウリーチン、ゆうりせい)」と呼ばれます。釉薬の下に青い絵があることから「釉裏青」とも解釈されます。日本では「呉須(ごす)」とも呼ばれます。

陶器と磁器の違いについて説明します。一般的に、陶器は土を低温(約800℃から1200℃程度)で焼成したもので、厚く重く、叩くと鈍い音がし、吸水性を持つ器とされます。

一方、磁器は陶器よりも高温で焼成され、原料の長石や石英が溶けてガラス化することにより作られます。磁器は陶器とは異なり、叩くと金属的なチンチンという音がし、吸水性はありません。

赤絵(あかえ)

多彩な色彩で赤色を主調とした絵付けが施された陶器を指す言葉です。このスタイルの陶器は赤色を中心に、緑色や黄色、紫色など様々な色彩が鮮やかに描かれています。

青磁(せいじ)

青磁(せいじ)は、青磁釉が施された磁器または炻器(れきがわ)と呼ばれる陶器のことです。

青磁は透明感のある青緑色を持つ陶磁器であり、その起源は紀元前14世紀頃の中国(殷)にまで遡るとされています。後漢代には広く普及しました。この製造技術は日本や高麗(朝鮮)にも伝播しました。

青磁の特徴的な青緑色は、釉薬や粘土に含まれる酸化第二鉄が高温の還元焼成によって酸化第一鉄に変化することで発色します。ただし、青磁と呼ばれるものには、酸化クロムによって発色させるものもありますが、色合いは全く異なります。

粉引(こびき)

粉引(こはき)は、陶器の一種です。赤土と呼ばれる粘土をベースにしており、その上に白い泥をかけることで白化粧と呼ばれる特徴的な装飾を施します。そして、白化粧の上から釉薬をかけます。このような工程を経ているため、粉引は他の土ものの器と比べて、より厚みがあり、柔らかな表情が作り出されます。

粉引の製作過程は、粘土層、白化粧層、釉薬層の3層構造から成り立っています。赤土で形を作り、その上に白い泥を重ねて白化粧とすることで、独特の美しい表現が生まれます。そして最後に釉薬をかけて焼成することで、器に独特の風合いや色彩を与えます。粉引の器はその独自の美しさと温かみが魅力とされ、多くの人々に愛されています。

御深井(おふけ)

御深井焼(おふけいやき)は、17世紀後半から18世紀にかけて主に栄えた陶磁器のスタイルです。この焼き物は、灰釉に長石を加えて透明度を高めた釉を施すことが特徴であり、さらに摺絵や型打ち、貼付文などの技法が用いられています。

御深井焼は、釉薬によって陶器に深い光沢と透明感を与えることで知られています。釉薬の配合に長石を使用することで、より透明度の高い釉薬が得られます。また、摺絵や型打ち、貼付文などの技法を組み合わせることで、独特の文様や装飾が施された陶器が作られました。

御深井焼は、その美しい釉薬と精巧な装飾が評価され、当時の陶磁器の中で重要な位置を占めていました。その優雅で洗練されたスタイルは、多くの人々に愛され、現代でもその美しさが高く評価されています。

飴釉(あめゆう)

飴釉(あめゆう)は、鉄釉の一種で、酸化焼成によって褐色になる釉薬です。その名前は、釉薬の色が「飴色」と呼ばれる褐色であることに由来しています。

飴釉の釉薬には、通常5~8%の酸化鉄が含まれており、この量を超えると黒釉となります。

釉薬の配合例としては、福島長石を6部と土灰を4部とし、外割に鬼板を5%添加するなどがあります。焼き上がりが淡黄色となる場合には、鬼板の割合を増やすことで調整を行います。飴釉は、鉄分の含有量が1~3%未満の黄釉と、約10%の含鉄量を持つ黒釉(瀬戸黒など)の中間の色合いとなります。

そのため、飴釉の特徴として、発色にバラつきがあり、釉ムラが生じやすいという点が挙げられます。茶褐色の地肌に黒褐色の筋が流れるようなムラのある釉の表現が、飴釉の一例となります。

美濃伊賀(みのいが)

花入や水指などの形状が伊賀焼に似ている陶器を指すことがあります。このような陶器は、伊賀焼を模倣して作られているため、伊賀風と呼ばれています。

伊賀焼では、自然釉が緑色に変化し美しいビードロとして知られていますが、伊賀風では白い粘土に化粧を施し、その上に鉄釉をかけるという特徴があります。また、伊賀風は伊賀織部とも呼ばれることがあります。

美濃唐津(みのからつ)

織部の窯で焼かれた唐津風の陶器を指します。織部の窯は美濃地方にある久尻の元屋敷窯を築いた加藤景延によって設立されました。唐津風の陶器は、加藤景延が唐津で学んできた技術に基づいて作られたとされていますが、唐津から同行した陶工によって焼かれた可能性もありますが、はっきりとはわかっていません。

元屋敷窯で焼かれる陶器は、赤みを帯びた生地が特徴であり、一方、高根東窯では灰色の生地が用いられます。唐津風の作品は、主に向付などの食器類が多く制作されています。また、唐津織部とも呼ばれることもあります。